【所得税対策】サラリーマン・個人事業主の節税手法16選!利用できる控除や計上できる経費も解説
サラリーマンや個人事業主の所得税対策には、経費を正しく把握することが大切です。
経費の分類方法や利用できる控除を知っておくことで、所得税の課税額を抑える効果が期待できます。
本記事では、サラリーマン・個人事業主の所得税対策や控除・経費の活用法を解説します。
利用できる制度を活用しながら、所得税を抑えましょう。
<この記事の監修者> 吉本 貴幸(よしもと たかゆき) 税理士法人吉本事務所 代表社員 税理士・行政書士 大学卒業後、1998年に現在の税理士法人の前身である個人税理士事務所に入所。2021年10月より現職。法人、個人事業のクライアントや相続税、贈与税の申告に関わる一方、税理士法人関連会社の社会保険労務士事務所、行政書士事務所、保険代理店のマネージメントにも携わる。経営に関する総合的な知識のもと、税務申告のみならず、事業運営・起業・法人設立のアドバイスも得意とする。税理士法人関連7サイトの総編集長・監修者として、最新の税務情報発信に務めている。 |
サラリーマンが今すぐ利用できる所得税対策《10選》
サラリーマンの給与は、毎月所得税や住民税などが差し引かれた金額が支給されています。
所得金額を減らすことによって所得税も減るため、手取り金額を増やせるでしょう。
以下では、サラリーマンが今すぐ行える所得税対策を紹介します。
①扶養控除
扶養控除は親や子など、控除対象の扶養親族がいる場合に適用されます。
ただし、控除対象となる家族には要件が定められており、控除を受けるには以下の要件を全て満たすことが必要です。
・納税者と生計を一にしていること ・配偶者以外の親族、里子、市町村長から養護を委託された老人であること ・年間の合計所得金額が48万円以下(給与のみの場合は収入が103万円以下)であること ・青色申告者の事業専従者としてその年に一度も給与の支払を受けていない、または白色申告者の事業専従者でないこと |
また、控除額は以下の通りです。
区分 | 要件(その年の12月31日時点での年齢) | 控除額 |
一般の控除対象扶養親族 | 16歳以上 | 38万円 |
特定扶養親族 | 19歳から23歳未満 | 63万円 |
老人扶養親族 | 70歳以上で同居老親等以外の者 | 48万円 |
70歳以上で同居老親等の者 | 58万円 |
老人扶養親族は、治療・入院などやむを得ない理由で納税者と別居状態になった場合、その期間が1年以上の長期にわたる場合でも「同居」とみなされます。
ただし、老人ホームに入居している場合は同居扱いとはなりません。
②医療費控除
医療費控除は、納税者がその年の1月1日から12月31日の間に自分を含めて生計を一にする家族にかかった医療費が一定額を超える場合に適応されます。
医療費控除の対象となる主な項目は以下の通りです。
・病院の診療費・治療費 ・入院費・手術費 ・義足や補聴器など治療に必要な医療器具の購入費 ・通院のための交通費 ・子どもの歯列矯正費 ・処方せんによる医薬品の購入費 など |
医療費控除は以下の方法で算出されます。
医療費控除額(上限200万円)=実際に支払った医療費(医療保険などで補填された額を除く)-10万円 |
なお、総所得金額が200万円未満の場合は10万円ではなく総所得金額の5%が控除されます。
また、医療費の未払金がある場合、実際に支払った年の医療費が控除対象となる点にも注意しましょう。
③セルフメディケーション税制
セルフメディケーション税制は、体調をセルフケアしながら健康維持を推進することを目的として導入された制度です。
利用の要件は、その年中に健康維持や予防を目的に予防接種や一定の健康診断を行っていることです。
セルフメディケーション税制を利用した場合、OTC医薬品の購入費用のうち1万2,000円を超えた金額(8万8,000円が限度)が控除対象となります。
なお、医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できません。
④住宅借入金等特別控除
住宅ローン等を利用して住宅の新築・取得や増改築を行なった場合、一定の要件を満たすと住宅借入金等特別控除を受けられます。
控除率は一律0.7%で、床面積要件は50㎡以上(特例居住用家屋・特例認定住宅等の新築等の場合は40㎡以上50㎡未満)です。
適用条件・借入限度額・所得要件は「取得か増改築か」や「取得した住宅の種類」などによって異なるため、詳しくは国税庁のホームページで確認しましょう。
⑤生命保険料控除
納税者が生命保険や介護保険、個人年金の保険料を支払った場合、一定の所得控除(上限120,000円)を受けられます。
また、生命保険料控除は契約締結タイミングによって「新契約」と「旧契約」に分かれ、それぞれの控除額は以下の通りです。
【新契約(平成24年1月1日以後に締結した保険契約等)】
年間の支払保険料等 | 控除額 |
20,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
20,000円超 40,000円以下 | 支払保険料等×1/2+10,000円 |
40,000円超 80,000円以下 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 |
【旧契約(平成23年12月31日以前に締結した保険契約等)】
年間の支払保険料等 | 控除額 |
25,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
25,000円超 50,000円以下 | 支払保険料等×1/2+12,500円 |
50,000円超 100,000円以下 | 支払保険料等×1/4+25,000円 |
100,000円超 | 一律50,000円 |
⑥地震保険料控除
地震保険料控除は、毎月の地震保険の支払いを所得から控除できる制度です。
納税者、または納税者と生計を一にしている配偶者や親族が所有する居住用の建物や家財を保険の対象とする地震保険の保険料が控除対象となります。
保険料と控除額の関係は以下を参考にしてください。
地震保険料控除 | 保険料 | 控除額 |
5万円以下 | 支払保険料全額 | |
5万円超 | 5万円 |
⑦特定支出控除
給与所得者であっても、仕事での支出で自己負担額が一定を超えた場合は特別支出控除の対象となります。
特別支出控除の対象となるのは以下の項目です。
・通勤費 ・転居費(転勤などにかかる費用) ・資格取得費 ・職務上の旅費(出張などの費用) ・研修費 ・帰宅旅費(単身赴任などの自宅と居所の移動費) ・勤務必要経費(上限金額65万円) ◦図書費 ◦交際費 ◦被服費(制服や作業着などの費用) |
なお、特定支出控除を受けるためには、給与支払者の証明が必要です。
⑧iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは個人型の確定拠出年金で、老後に向けた資産形成を目的として、個人で資産を運用する制度です。
運用する金融機関や運用商品を自分で選び、毎月掛け金を積み立てて60歳まで運用します。
確定拠出年金には個人型の(iDeCo)と企業型DCがあり、個人型は自分の資産から掛け金を拠出しますが、企業型は退職金制度の一環として会社から掛け金が拠出されます。
節税面では、毎月積み立てた金額が所得控除の対象です。
また、運用益は非課税になり、受け取り時には控除を受けられるなど、複数のメリットを得られます。
⑨NISA(少額投資非課税制度)
NISAは少額投資非課税制度で、税金そのものを非課税にできるメリットがあります。
また、NISAで得られた収益は一定期間は課税対象とならないため増やした収益を満額受け取れます。
通常のNISAだけでなく、少額から始められる「つみたてNISA」の他、子や孫のために投資できる「ジュニアNISA」なども選択可能です。
それぞれに異なる非課税期間が設けられているので、下記を参考にしましょう。
種類 | NISA | つみたてNISA | ジュニアNISA |
利用可能条件 | 日本に住む20歳以上の人 | 日本に住む20歳未満の人 | |
非課税期間 | 5年 | 年間40万円 | 年間80万円 |
上限非課税額 | 年間120万円 | 年間40万円 | 年間80万円 |
運用可能商品 | ・国内外株式 ・投資信託(金融庁の基準を満たしたもの) ・国内外REITなど |
年間40万円 | ・国内外株式 ・国内外投資信託 ・国内外REITなど |
※「20歳」とあるのは、令和5年1月1日以降に開設する場合は「18歳」となります。
※ジュニアNISAは2023年末で終了します。
⑩ふるさと納税
ふるさと納税は、税金を任意の自治体に寄付することで返礼品を受け取れる制度です。
寄付金には「寄附金控除」が適用され、寄付した金額のうち2,000円を超える部分で所得税と住民税の控除が受けられます。
寄付できる金額には上限が設けられており、上限を超えた場合自己負担分が増えてしまう点には注意しましょう。
また、ふるさと納税はあくまで翌年の住民税を前払いするための制度であるため、実質的な節税効果は期待できません。
翌年の控除額からは「寄付金額より2,000円少ない金額」しか控除されないことを踏まえておきましょう。
【シーン別】サラリーマンが利用できる所得税対策
サラリーマンはライフイベントによって発生する控除もあるため、控除につながるシーンを把握しておくことも大切です。
ここからはサラリーマンの所得税対策をシーンごとに解説します。
配偶者と離婚・死別した場合
配偶者と離婚・死別した人は、「ひとり親控除」か「寡婦控除」のいずれかが適用される場合があります。
ひとり親控除
納税者がひとり親である場合、35万円の所得控除が受けられます。
ひとり親とは、その年の12月31日時点で婚姻をしていない・配偶者の生死が不明な「男女」のうち、下記要件すべてに該当する人です。
・事実上の婚姻関係と認められる人がいないこと ・生計を一にする子(総所得金額が48万円以下・他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっていない場合に限る)がいること ・合計所得金額が500万円以下であること |
寡婦控除
納税者が寡婦である場合、27万円の所得控除を受けられます。
寡婦とは、その年の12月31日時点で「ひとり親」に当てはまらない「戸籍上の女性」のうち、次のいずれかを満たす人です。
・夫と離婚後に婚姻をしておらず、合計所得金額が500万円以下で扶養親族がいる人 ・夫と死別後に婚姻をしていない・夫の生死が不明で合計 所得が500万円以下の人 |
災害や盗難などの被害を受けた場合
災害や盗難などの被害を受けた場合、雑損控除による所得控除と災害減免法による税額控除の2つが控除対象とみなされます。
災害減免法の場合は適応範囲が災害での被害に限られますが、雑損控除の場合は自然災害の他、人為災害や盗難など被害も控除対象になることがポイントです。
火災による被害を受けたケースではどちらの制度を利用するか選べるため、控除額が大きい方を選ぶとよいでしょう。
株取引で損失があった場合
上場株式等の譲渡で損失があった場合は、損益通算でその年に得られた利子や配当所得と相殺できます。
また、相殺しきれなかった売買損失は繰越控除で翌年以後3年間まで繰り越し可能であることから、利益が損失額を上回らない限り課税対象となりません。
株取引では、損失をしっかり計上することが所得税対策につながるのです。
副業をしている場合
副業している場合、確定申告時に青色申告を行うことで最大65万円の特別控除が受けられます。
青色申告するためには個人事業主として開業届を提出し、収益を事業所得として申告しましょう。
ただし、副業の収入が少ない場合は雑所得扱いにされるケースもあります。
また、副業を禁止している会社もあるため、副業を行う際には会社に確認しておくことが大切です。
個人事業主・フリーランスが利用できる所得税対策《6選》
個人事業主やフリーランスの場合は、知識の有無によって控除額が大きく変わってくるため、節税に関する知識を持っているほど所得税対策に有利です。
①経費を漏れなく計上する
事業を営むうえで必要な経費は漏れなく計上しておきましょう。
具体的には、下記のような経費を差し引いて所得金額を低く抑えることで、節税効果が得られます。
勘定科目 | 例 |
水道光熱費 | 水道代や電気代 |
通信費 | 電話代やインターネット料金 |
消耗品費 | 文房具など消耗品購入費用(10万円未満) |
荷造運賃 | 商品発送のための段ボールや運送料 |
福利厚生費 | 会社が支払った従業員の食事代や健康診断の費用 |
接待交際費 | 取引先との飲食代やお中元・お歳暮の費用 |
旅費交通費 | 電車やバスの費用、宿泊費 |
減価償却費 | 事業用の建物や機械装置などの減価償却資産にかかるもの |
租税公課 | 消費税や個人事業税、固定資産税 |
広告宣伝費 | 新聞やテレビによる広告費用 |
②青色申告する
個人事業主やフリーランスは、青色申告することで節税の優遇措置を受けられます。
青色申告は確定申告の方法の一つですが、白色申告よりもやや手続きが複雑です。
しかし、青色申告では「事業所得から最大65万円の特別控除が受けられる」ことや、「配偶者や親族に支払う給与を経費として計上できる」など多くのメリットがあります。
利用するためには税務署に「青色申告承認申請書」を提出し、青色申告の承認を得なければなりません。
また、複式帳簿が必要となるため準備しましょう。
③小規模企業共済を利用する
小規模企業共済を利用すると、所得控除を受けながら共済金を積み立てられます。
小規模企業共済は自分で積み立てる退職金で、小規模企業の経営者や個人事業主を対象とした共済制度です。
月々の掛け金は所得控除の対象で、1,000円〜7万円の間(500円単位)で自由に決められます。
また、受け取りが可能な共済金の種類と要件は下記の通りです。
共済金等の種類 | 請求要件 |
共済金A | ・個人事業を廃業した場合 ・共済契約者の方が亡くなられた場合 |
共済金B | ・65歳以上で180か月以上掛金を払い込んだ場合 |
準共済金 | ・法人成りによって加入資格がなくなったため、解約をした場合 |
解約手当金 | ・任意解約 ・機構解約(掛金を12か月以上滞納した場合) ・法人成りによって加入資格はなくならなかったが、解約をした場合 |
④少額減価償却資産の特例を利用する
青色申告を提出しており、雇用する従業員の数が 500人以下の場合は、少額原価償却資産の特例の利用が可能です。
通常の減価償却では耐用年数内で少額ずつ減価償却費を計上しますが、青色申告が可能な場合、特例を利用することで30万円未満であれば取得金額を一括計上できます(上限額300万円)。
これにより、本来課税される償却資産税を非課税とすることが可能です。
白色申告でも同様の特例を受けられますが、一括計上可能な金額は10万円未満にとどまります。
⑤短期前払費用の特例を利用する
短期前払費用の特例を利用することで、前払費用を損益計上することができ、所得税の減額につながります。
通常であれば前払金を帳簿に計上する場合は「前払費用」として資産計上しますが、以下の条件に該当するものは、損益として所得額から差し引くことが可能です。
・支払いから1年以内に役務の提供を受けること ・継続して経費に計上していること ・収益の計上と対応させる必要がないこと |
⑥法人化を検討する
事業の収益が多い場合は、法人化を検討することも視野に入れるとよいでしょう。
法人化することで、以下のようなメリットが得られます。
・個人事業所得から、法人の役員報酬になると税負担の軽減ができる場合がある ・事業保険など、役員を対象とした一定の生命保険を法人で入ることができる ・損失が生じた場合、その損失を10年間繰り越すことができ、利益と相殺できる |
また、課税事業者となったタイミングで法人化することにより、納税判定対象期間をリセットできます。
一定の制限はあるものの、課税事業者となるまでに1〜2年の猶予期間が得られるのです。
そのほか、個人事業主の税金対策について知りたい方はこちらをご覧ください。
個人の所得税対策で気をつけたい注意点
個人で所得税対策をする場合、注意すべきポイントを押さえておくことで、より高い節税効果が期待できます。
源泉徴収だけでは利用できない制度がある
サラリーマンの場合は会社が年末調整をしてくれるため、確定申告が必要でないケースがほとんどです。
ところが、会社の源泉徴収だけでは、一部の所得控除しか利用できません。
たとえば、以下の控除は自分で確定申告をした場合のみ利用できます。
・医療費控除 ・セルフメディケーション税制 ・特定支出控除 ・寄附金控除(ふるさと納税など) ・住宅借入金等特別控除 ・雑損控除 |
共働き世帯では収入の高いほうが扶養控除を利用する
共働きの夫婦は、収入の高いほうが扶養控除を利用しましょう。
扶養控除を利用する場合、所得金額が高いほど控除できる金額を増やせます。
扶養控除は、会社から年末調整の書類とともに渡される「扶養控除等(異動)申告書」に必要事項を記入・提出しましょう。
過度な節税対策で支出を増やしすぎない
節税対策のためとはいえ、やみくもに支出を増やすのは得策ではありません。
控除限度額が設けられているものに、限度額以上の支出があったりしては無意味です。
支出とのバランスを考慮しながら、節税対策を行なってください。
個人の所得税対策に関するお悩みは「税理士法人吉本事務所」にご相談ください
税理士法人吉本事務所は、税理士だけでなく行政書士や保険外交員などがそれぞれの専門知識を駆使してお客様にとっての最善を導き出します。
節税に関する豊富な知識と経験に基づくノウハウで、お客様に合わせた所得税対策を提案することが可能です。
副業や個人事業における所得税対策や確定申告などに関するお悩みがある方は、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
サラリーマンや個人事業主が効率的に所得税対策を行なうためには、控除制度に対する知識を深めておく必要があるでしょう。
特にサラリーマンの場合は会社の年末調整だけに頼らず、自分自身で確定申告を行なう姿勢が大切です。
利用できる控除制度をうまく活用しながら、得られる収入を増やしましょう。