源泉徴収と年末調整について
今回は皆が大嫌いな源泉徴収のお話。
人事担当者 『計算が面倒』
サラリーマン『手取りが減って損した気分』
性質が税金なので、受取る側が儲かるわけでもないのに徴収額を計算し、問答無用で預かり、一定期間内に集計して納付しなければならない。 何かと不平不満をよく聞く源泉徴収制度ですが、今回はその意義や対象などを解説していきます。
1.源泉徴収とは
(1)源泉徴収制度
源泉徴収とは、端的に言ってしまえば所得税の事前預かり制度です。サラリーマンであれば給与明細にほぼ必ず載っている『源泉徴収税額』。これが源泉徴収税です。サラリーマンってたいていの人は確定申告をしませんよね、当然ですがこれはサラリーマンが税金を払わなくてよい制度ではありません。日本の就労者の大半を占めるサラリーマンたちが大挙して2月〜3月に税務署へ押し寄せれば、恐らく税務署はパンクしてしまう為、採用されているのが源泉徴収制度です。これにより予め給与から源泉徴収をしてしまう事で、サラリーマンが一々確定申告に行ったり、所得税を納付したりしなければならないという手間を省いています。
サラリーマン『俺の薄給で一々確定申告なんかやってられるか?!』
税 務 署 『こんな人数で来られても仕事こなせるか?!』
という両方のニーズを充足させる制度、それが源泉徴収制度なのです。 双方にメリットがある夢のような制度のように書きましたが、双方の手間を省いた分だけそのツケは給与等の支払者に回ります。
(2)源泉徴収の種類(対象)
上の例ではわかりやすいようにサラリーマン、つまり給与に絞って解説しましたが、源泉徴収はいろんなものにその徴収義務が課せられています。 給与・賞与、退職金、年金、弁護士、司法書士など士業への報酬料金等、利子(私的な貸借によるものを除く)、配当(外国法人から支払いを受けるものの内、海外の金融商品取引業者を介して支払を受けるものを除く)非居住者の収入全般、ざっと上げ連ねてもこれだけの種類があります。 徴収税額、税率は種類ごとに様々な為、ここでは主だったものを中心に解説していきます。
(イ)給与・賞与
社会保険料等控除後の金額を基に徴収する事と定められています。 (国税庁が毎年配布する『源泉徴収税額表』を参照。) また、その従業員が専属で就業している場合を甲、掛け持ちで就業している内、副業に当たる場合を乙と呼びますが、その甲・乙の種別によっても、徴収される税額は違ってきます。
(ロ)退職金
退職者が『退職所得受給に関する申告書』を支払者に提出していない場合は一律で20.42%。提出がある場合には定められた税率により支払者が税額計算し、実額を徴収するという流れになります。
(ハ)利子・配当
金融商品の種類によって、15.315~20.42%の税率が適用されます。内、配当に関しては総合課税と選択する事が可能な為、確定申告を行う事により適正税額に再計算し、配当控除などを考えあわせて、還付対象とする事も可能です。
(ニ)弁護士等の報酬その他
弁護士、税理士、司法書士といった士業と名の付くものの殆どの他、デザイナー、作曲家、果ては懸賞金品なども源泉徴収の対象とされます。
これらに適用される税率は10.21〜20.42%、一度の支払いで100万円を超える場合に100万円を超えた部分だけが20.42%となるイメージです。(司法書士や、懸賞金など単純に税率積算で計算が出来ないものもありますが、ここでは説明を割愛します。)
(3)源泉徴収義務者
源泉所得税は本来支払いを受ける者、つまりサラリーマンなどが支払うべき税金ですが、納税義務は支払いをする会社側にあります。
納付期限は支払月の翌月10日(10日が土日祝日の場合翌日)まで。ただし、常時2名以下の家事使用人(家政婦とか)のみに支払している場合には、源泉徴収の例外になるとされています。基本的に毎月納付しなければいけないという事になるわけですね。
また納期限について、給与の支払いを受ける者が常時10人未満の法人、事業者については事前申請する事で、半年分をまとめて納付する事が可能になります。(1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日まで)ただし、給与・賞与、退職金、士業などへの報酬についてはこの対象となりますが、イラスト原稿、作曲家などが支払いを受ける源泉所得税の納期限は原則通り毎月納付となるため、注意が必要です。
源泉所得税はあくまで自分以外の人が納める税金を代わりに納付しているという性質上、つい納付が漏れてしまうなどが起こりがちですが、納税義務者が支払者である以上、不納付、過少納付による加算税・延滞税などは全て支払者側に生じる事となります。
2.確定申告は必要?
前章で源泉所得税は、支払う側が預かって納付する形式が取られると書きました。本章では、支払いを受けた側のお話です。
源泉所得税を取られた側は源泉徴収をされているという事は自覚がなくとも所得税を納付しているという事になります。では、この上で確定申告は必要なのでしょうか。この答えは3パターンに分かれます。
(1)年末調整で不要となるケース(給与・賞与)
世の中のサラリーマン殆どがこのケースに該当するかと思います。医療費控除など各自の事由で敢えて確定申告を行っている方を除き、サラリーマンの皆さん確定申告なんてしたことないですよね。そんなサラリーマンが確定申告で大挙して税務署へ押しかけない為の制度その2、それが年末調整です。
年末調整は給与所得限定の簡易確定申告といった位置づけで、各人の月給額だけを見て概算で徴収していた源泉所得税を年末調整で他の月の給与や賞与、それに生命保険料控除など諸々の控除を加減算し、 会社が税務署に代わって取られすぎていた分は還付し、不足していた場合は追加徴収するという制度です。
年末調整って何となくお金が返ってくるイメージがありますよね。これは源泉所得税に生命保険料控除など見込まれていなかった所得控除が年末調整時に考慮される為です。
(2)確定申告義務が生じるケース(事業等その他を営む場合)
例えばイラスト作成請負などを個人で委託を受けて事業を営んでいる場合、他の事業と同様に確定申告が必要になります。ここで小売店経営など一般の業種と違い、源泉徴収を予めされている業種については当然その予め徴収された源泉所得税を加味して計算を行う事となります。
(3)還付等を受ける為に確定申告を行うケース。
源泉徴収に限ったお話ではないのですが、所得や税額控除などの一部は確定申告を行わなければ税額に反映されないものもあります。
これらを税額計算に加味し、還付を受ける為にも確定申告は必要になります。 代表例としては、以下のケースが挙げられます。
・医療費控除を適用
・ふるさと納税を6か所以上に行った場合
・配当所得で総合課税・申告分離課税を選択する場合
・災害に被災、盗難などに遭った際の税額軽減・免除を受ける場合
その他細かなケースは存在しますが、まずはご自身の所得の種別や、金額などにより確定申告義務の有無を判定する事が重要になってきますので、結果的に確定申告する・しないに関わらず所得区分の把握や税額の計算は必須になってこようかと思います。
3.まとめ
今回はこれで以上です。 源泉徴収制度は実際の負担者と納税義務者が別に存在する上、対象が多岐に渡るので非常に難解です。 ただし、特に従業員等の雇用とは切っても切れない関係のものではあります。 支払者にとってひたすら手間がかかる一方で、間違いによる過少納付、不納付の責任が発生する為、正しい理解をもってあたる必要があります。
(2019年12月記載)
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