【税理士が解説】相続税の税務調査とは?時期・確率・選ばれやすいケース・対策のすべて
・相続税の税務調査に選ばれたらどうしよう ・税務調査はどのように行われるのか ・税務調査の対策を知りたい |
など、相続税の税務調査に対する不安や疑問を抱えている方が少なくありません。
相続税の税務調査とは、相続税の申告内容が正しいかどうかを確認するために行う調査のことで、令和4年事務年度(令和4年7月1日~令和5年6月30日)では8,196件行われています。
本記事では、相続税の税務調査に選ばれやすいケースから税務調査の流れまで詳しく解説します。
また、税務調査に強い税理士事務所の探し方を含め、税務調査の対策も解説しているので、ぜひ最後までご覧ください。
<この記事の監修者> 吉本 貴幸(よしもと たかゆき) 税理士法人吉本事務所 代表社員 税理士・行政書士 大学卒業後、1998年に現在の税理士法人の前身である個人税理士事務所に入所。2021年10月より現職。法人、個人事業のクライアントや相続税、贈与税の申告に関わる一方、税理士法人関連会社の社会保険労務士事務所、行政書士事務所、保険代理店のマネージメントにも携わる。経営に関する総合的な知識のもと、税務申告のみならず、事業運営・起業・法人設立のアドバイスも得意とする。税理士法人関連7サイトの総編集長・監修者として、最新の税務情報発信に務めている。 |
相続税の税務調査とは
相続税の税務調査とは、相続税の申告内容が正しいかどうかを確認するために行う調査のことです。
税務署は、被相続人(亡くなった人)の財産に関する情報を把握しているため、相続人の意図的でなくとも「申告内容が誤っている可能性がある」と判断されれば、調査の対象になります。
なお、税務署が把握している情報は、具体的に以下のようなものが挙げられます。
・被相続人の過去の所得 ・不動産・株式・債権等の保有状況 ・生命保険の支払い状況 ・被相続人や家族の預貯金残高・入出金履歴 など |
税務調査は「任意」と「強制」の2種類
税務調査には「任意調査」と「強制調査」の2種類があります。
任意調査とは、税務署が調査の対象者へ事前に連絡をし、同意のもと行われる調査のことです。
任意とはいえ調査を拒否すると罰則が科されるため、厳密には断ることはできません。
一方で強制調査とは、裁判所の令状を得て強制的に行われる調査のことです。
通常の税務調査は任意調査を指し、あらかじめ調査日時を決めたうえで行われます。
税務調査の時期は「申告から1~2年後」
税務調査は、相続税の申告から1~2年後の8~11月頃に行われます。
税務署から連絡がないまま申告から2年後の11月を過ぎれば、税務調査が行われる可能性は低いと言えるでしょう。
とはいえ法的に定められているわけではなく、中には申告から3年後に行われる場合もあります。
『約7%』の確率で税務調査が行われている
相続税の税務調査は申告から1~2年後に行われるため、令和4年事務年度(令和4年7月1日~令和5年6月30日)の調査件数と、令和2年分の申告件数からおおよその確率を計算すると約7%でした。
令和4年事務年度の調査件数 | 8,196件(令和4事務年度における相続税の調査等の状況) |
令和2年分の申告件数 | 120,372件(令和2年分相続税の申告事績の概要) |
なお、税務調査が行われた8,196件のうち、実際に誤りが認められた件数は全体の8割を超える7,036件で、調査件数(8,196件)をもとにした1件あたりの追徴税額(本来納付すべき税額との差額+加算税)は816万円にも上ります。
税理士体験談:税務調査に選ばれやすいケース
この章では、税理士が考える税務調査に選ばれやすいケースを解説します。
・相続税の申告を自分でしている ・相続税の申告内容に漏れがある ・相続税の申告をしていない ・相続財産が2億円以上ある ・相続財産に海外資産が多い ・相続財産に預貯金や現金が多い ・借入金に見合う相続財産がない ・家族の財産が不自然に多い |
なお、実際は税務署が判断するため、あくまで調査の対象になりうるケースとして参考にしてください。
相続税の申告を自分でしている
相続税の申告は税理士以外でも行えますが、税理士が関与していない申告は誤りがある可能性が高いと判断され、税務調査の対象になる可能性が高いと言えます。
相続税の申告書には税理士の署名欄があり、税務署は税理士が作成したものかどうかを判別できるためです。
相続税の申告内容に漏れがある
先述の通り、税務署は被相続人(亡くなった人)の財産に関する情報を把握しているため、申告内容に漏れがあれば税務調査の対象になる場合があります。
財産状況から想定される税額より納税額が少ないと、意図的に財産の一部を隠している可能性も考えられるためです。
相続税の申告をしていない
相続税の申告が必要にもかかわらず無申告の場合は、税務調査の対象になる可能性があります。
なお、相続税がかからなければ申告は不要ですが、相続税の控除や特例によって相続税が0円になったケースでは、場合により申告が必要です。
相続財産が2億円以上ある
相続財産が2億円を超える場合は、申告内容に不審な点がなくても税務調査の対象になる可能性が高いでしょう。
相続財産が多いほど申告内容の誤りや漏れが起こるリスクが高く、実際に発覚した場合は納税額が大きく左右されることが理由と言えます。
また、被相続人の社会的地位が高く多額の収入を得ていた場合や、生前に家賃収入や株式の譲渡により利益を得ていた一方で納税額が少ない場合も、調査の対象になりやすいでしょう。
相続財産に海外資産が多い
税務署は、海外資産を利用した租税回避を防ぐため情報把握に努めており、海外資産を相続すると税務調査の対象になる可能性が高いと言えます。
なお、海外の金融機関を通して100万円を超える送金または受金があった場合は、金融機関から税務署への報告が義務付けられています(国外送金等調書)。
相続財産に預貯金や現金が多い
相続財産に預貯金や現金が多く、また預貯金の出金・入金の回数が多いと、税務調査の対象になる場合があります。
被相続人が生前に財産を移転していたりお金の貸し借りや売買を行なっていたりなど、相続人が把握できないようなやり取りが行われていた場合は、知らずに申告漏れが生じている恐れがあるためです。
借入金に見合う相続財産がない
被相続人に多額の借入があったにもかかわらず、金額に見合うような相続財産が含まれていないと税務調査の対象になる場合があります。
相続人が相続財産を正確に把握できていない可能性も考えられるためです。
家族の財産が不自然に多い
被相続人の財産だけでなく、被相続人の配偶者や子ども、孫など家族の財産が多い場合も税務調査の対象になる場合があります。
家族名義の口座でも被相続人が入金・管理していた場合は、名義預金として被相続人の財産に含めなければならず、申告漏れに該当するためです。
また、不自然に残高が多いまたは資産が多い場合、生前贈与を受けた可能性があることから調査の対象になりやすいでしょう(贈与税の申告をしていれば問題ありません)。
Q&A:相続税の税務調査に関するよくある質問
ここからは、相続税の税務調査に関するよくある質問を紹介します。
相続税の税務調査は一般家庭も対象?
相続税の税務調査は、納税額が少額の一般家庭でも対象になる場合があります。
必ずしも富裕層に対して行われるとは限らない点に留意しておきましょう。
相続財産がいくら以上で調査の対象になる?
税務調査の対象となる基準は明らかではありませんが、一般的に相続財産が2億円以上あると調査の対象になる可能性が高いと言えます。
先述の通り、相続財産が多いほど申告内容の誤りや漏れが起こるリスクが高いことが理由です。
タンス預金は調査時にバレる?
タンス預金は、税務調査でバレます。
隠し通せると思うかもしれませんが、調査時に発覚するとペナルティを受けるため、正しく申告を行いましょう。
申告内容の誤りに対するペナルティは、次章で解説します。
税務調査で申告の誤りが発覚したらどうなる?
税務調査で申告内容の誤りが発覚した場合は、修正申告を行う必要があります。
申告が必要にもかかわらず無申告だった場合は、期限後申告を行わなければなりません。
また、いずれの場合もペナルティとして、本来納付すべき税額の差額に加えて以下の税金が課されます(追徴課税)。
名称 | 概要 | 課税割合 |
延滞税 | 申告期限内に正しく申告・納付しなかった場合に課される税金 | 2.4~8.7%(令和6年12月31日まで※毎年変動) |
過少申告加算税 | 申告内容が本来の税額よりも少なかった場合に課される税金 | 10% |
無申告加算税 | 申告が必要にもかかわらず無申告だった場合に課される税金 | 15~30% |
重加算税 | 意図的に仮装隠蔽を行なっていた場合に課される税金 | 35~40% |
税務調査のリスクを最小限に抑える5つの方法
税務調査のリスクを最小限に抑えるには、以下の方法が効果的です。
1.相続税の申告を正確に行う 2.相続に強い税理士へ依頼する 3.相続財産を漏れなく把握する 4.やり取りをすべて記録する 5.生前贈与の証拠を残しておく |
順に解説します。
1.相続税の申告を正確に行う
相続税の税務調査は申告内容が誤っている可能性がある場合に行われるため、正確に申告を行うことで税務調査のリスクを減らせます。
また、相続財産の内容がわかる資料を不足のないよう揃えることも重要です。
相続税の申告に必要な書類は、以下の記事で詳しく解説しています。
相続税申告の必要書類・添付書類をケース別に解説
2.相続に強い税理士へ依頼する
税理士が関与していない申告は誤りがある可能性が高いと判断されることから、相続税の申告は自分で行わず税理士に依頼すべきと言えます。
とはいえ、税理士全員が相続に詳しいわけではないため、相続に強い税理士を探すことが重要です。
また、税理士の保証書のような意味がある「書面添付制度」を導入している税理士事務所を選ぶと、より税務調査のリスクを減らせます。
税理士の探し方は、後ほど解説します。
3.相続財産を漏れなく把握する
相続税の申告を正確に行うには、相続財産を漏れなく把握していることが前提です。
ただし、相続人がすべてを把握するのは難しい場合もあるため、税理士に相談することをおすすめします。
なお、相続がまだ発生していない場合は、税務調査のリスクを減らすためにも事前に家族と財産状況を共有しておくのが望ましいでしょう。
4.やり取りをすべて記録する
相続関連のやり取りはすべて記録しておくと、申告内容が正しいことを証明できます。
遺産分割協議を行う場合は、必ず誰が何を相続するかを記載した遺産分割協議書を作成しましょう。
また、申告書に被相続人の財産を調査した結果を添付すると、税務調査のリスクを減らせる場合があります。
5.生前贈与の証拠を残しておく
相続がまだ発生しておらず、相続税対策として生前贈与を行う場合は、贈与の証拠を残しましょう。
具体的には、以下のような方法が有効です。
・贈与契約書を作成する ・現金は手渡しせず口座に振り込む など |
なお、生前贈与を検討している場合は、より確実に相続税対策を行うためにも税理士に相談することをおすすめします。
税務調査前から調査当日までの流れ
相続税の税務調査は、一般的に以下の流れで行われます。
1.調査の連絡 | 相続税の申告を税理士に依頼していた場合は税理士へ、税理士に依頼せず自分で申告している場合は納税者に電話で連絡があります。 |
2.日時の調整 | 調査官と調査の日時と場所を決めます。 調査が行われる場所は、被相続人(亡くなった人)が最後に住んでいた自宅または納税者の自宅です。 調査当日は相続人全員で立ち会い、税理士に依頼していた場合は税理士にも立ち会ってもらいましょう。 自分で申告している場合で、税理士の立ち会いを希望する際は調査日を決める前に税理士へ相談してください。 |
3.調査の準備 | 税理士と申告内容や相続財産を再度確認し、申告内容が正しいことを証明する資料を必要な範囲で準備します。 |
4.調査当日(午前) | 通常であれば1~2日間、時間は10~16時頃まで行われます。 午前中は主に聞き取りがメインで、調査官から被相続人や相続人に関する質問を受けます。 ※一般的に質問される内容は次章で説明 |
5.調査当日(午後) | 昼休憩を挟み、午後からは貴重品の保管場所や資料の確認がメインに行われます。 なお、調査官の昼食の準備は不要です。 タンスや金庫の中身など細かく見せるよう依頼があれば協力的に応じたほうがマイナスな印象を与える心配がありません。 事前に準備した資料は、調査官から求められた場合のみ必要な範囲で提示しましょう。 |
6.調査の結果 | 一通りの調査を踏まえ、申告内容の誤りや漏れ、不審な点があれば調査官から指摘を受けます。 指摘のみの場合や指摘もなく調査が終わる場合もあります(申告是認)。 修正の指摘があれば修正申告を行い、追加の税金や延滞税、加算税の納付が必要です。 調査内容は調査官が証拠として書面を作成するため、相続人と税理士は内容を確認したうえで署名押印を行います。 なお、最終的な結果の決定に数週間の時間がかかる場合もあります。 |
調査官から質問される内容
相続税の税務調査で調査官から質問される内容は、以下のようなものが挙げられます。
調査日が確定したら、事前に回答を準備しておくとスムーズです。
被相続人に関する質問 | ・出身地 ・職業歴 ・結婚歴 ・家族構成 ・趣味 ・収支の状況 ・財産を築いた経緯 ・取引のある金融機関・支店名 ・相続開始前に引き出した現金の使途 ・投資の状況 ・生前贈与・寄付の内容 ・死亡時の状況 ・介護・医療費 ・生前の財産管理 ・印鑑・金庫の場所 ・配偶者や子どもの出身地 ・配偶者や子どもの年齢・職業・学校名 ・配偶者や子どもの財産状況 など |
相続人に関する質問 | ・出身校 ・職業歴 ・住まい ・取引のある金融機関・支店名 ・投資の状況 ・自宅の購入・売却歴 ・生前贈与の有無 ・金庫の有無 ・税理士との関係 ・配偶者や子どもの年齢・職業・学校名 など |
税務調査に強い税理士事務所の探し方
税務調査に強い税理士事務所は、以下の基準で探してみてください。
・税理士の専門性を確認する ・税理士との相性を確認する ・相続税の申告実績を確認する |
順に解説します。
税理士の専門性を確認する
税理士の専門性を確認し、相続を専門に扱う税理士を探しましょう。
税理士によって専門分野が分かれており、全員が相続に詳しいわけではないためです。
まずは税理士事務所のホームページをよく確認するとよいでしょう。
税理士との相性を確認する
税理士に相談する際は、正式な依頼の前に面談するのがおすすめです。
特に税務調査では税理士との信頼関係が重要となるため、税理士の人柄や相性を確認することが目的です。
たとえ相続専門でも、税理士の対応が悪ければ調査官にマイナスな印象を与えかねません。
相続税の申告実績を確認する
税務調査に強い税理士事務所は、相続税の申告実績も豊富な場合が多いと言えます。
調査時の対応や対策を心得ていると言えるため、適切なサポートを受けられるでしょう。
もし調査が行われる場合も安心して立ち会いを任せられるよう、問い合わせ時に実績も確認してみてください。
税務調査率『1%以下』の税理士法人吉本事務所
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まとめ
相続税の税務調査は、相続税の申告内容が正しいかどうかを確認するために、申告から1~2年後に行われます。
納税額が少額の一般家庭でも対象になる場合があり、必ずしも富裕層に対して行われるとは限りません。
なお、もし税務調査で申告の誤りが発覚すると、本来納付すべき税額との差額と加算税が課される(追徴課税)ため、相続税の申告は負担を軽減するためにも税理士に依頼するのが賢明です。
税理士の専門性を見極め、信頼できる税理士事務所を探してみてください。