【税理士監修】遺産分割協議書は全員が必要ではない!不要なケースや必要なケース、自分で作成する方法も解説
遺産分割協議書は全員が必要ではなく、主に以下のような基準で必要か不要かを判断できます。
遺産分割協議書は不要 | ・相続人が1人のみの場合 ・相続財産が現金・預貯金のみの場合 ・遺言書があり内容の通りに相続する場合 ・法定相続分の通りに相続する場合 |
遺産分割協議書が必要 | ・遺言書がなく相続人が2人以上いる場合 ・相続税申告が必要な場合 ・他の相続人とのトラブルを避けたい場合 |
本記事では、遺産分割協議書が不要なケースや必要なケースを詳しく解説します。
遺産分割協議書を作成する流れや記載する内容も解説するので、自分で作成したい方もぜひ参考にしてください。
<この記事の監修者> 吉本 貴幸(よしもと たかゆき) 税理士法人吉本事務所 代表社員 税理士・行政書士 大学卒業後、1998年に現在の税理士法人の前身である個人税理士事務所に入所。2021年10月より現職。法人、個人事業のクライアントや相続税、贈与税の申告に関わる一方、税理士法人関連会社の社会保険労務士事務所、行政書士事務所、保険代理店のマネージメントにも携わる。経営に関する総合的な知識のもと、税務申告のみならず、事業運営・起業・法人設立のアドバイスも得意とする。税理士法人関連7サイトの総編集長・監修者として、最新の税務情報発信に務めている。 |
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、遺産分割協議で決めた遺産の分割方法を記載した書面のことです。
遺産分割協議では誰が何を相続するかを話し合い、相続人全員が内容に合意したことを証明するために遺産分割協議書を作成します。
なお、遺産分割協議書には相続人全員の署名捺印が必要です。
遺産分割協議書は全員が必要ではない
遺産分割協議書は、全員が必要ではありません。
ただし、相続の手続きで遺産分割協議が成立していることを証明するために、遺産分割協議書の提出が必要な場合があり、必要か不要かは個々の状況によって異なります。
遺産分割協議書が不要なケースと必要なケースは、次章から詳しく解説します。
遺産分割協議書が不要なケース
以下に当てはまる場合、遺産分割協議書は不要と考えてよいでしょう。
・相続人が1人のみの場合 ・相続財産が現金・預貯金のみの場合 ・遺言書があり内容の通りに相続する場合 |
相続人が1人のみの場合
相続人が1人のみの場合は、すべての財産を1人で相続するため、遺産分割協議書を作成する必要はありません。
また、他の相続人が相続放棄を選択したことで相続人が1人になる場合も当てはまります。
注意点として、被相続人より先に他の相続人が死亡しているケースでは、死亡した相続人の子どもが代わりに相続することになるため、法定相続人の範囲を確認しておきましょう(代襲相続)。
常に相続人 | 被相続人の配偶者 |
第1順位 | 被相続人の子ども (すでに死亡している場合は被相続人の孫) |
第2順位 | 被相続人の父母 |
第3順位 | 被相続人の兄弟姉妹 (すでに死亡している場合は被相続人の甥・姪) |
相続財産が現金・預貯金のみの場合
相続財産が現金・預貯金のみの場合は、遺産分割協議書がなくとも相続の手続きができるため、作成する必要はありません。
ただし、複数の金融機関で手続きが必要な場合は、遺産分割協議書を作成したほうが効率はよいでしょう。
金融機関では所定の書類が用意されていますが、手続きごとに相続人全員の署名捺印が必要となるためです。
遺言書があり内容の通りに相続する場合
被相続人が遺言書を作成していた場合は、原則として遺言書の内容の通りに相続しなければならないため、遺産分割協議書の作成は不要です。
ただし、遺言書が正しい形式で作成されていない場合や、他の方法で遺産分割を行うことに相続人全員が合意した場合は、遺産分割協議書を作成しましょう。
なお、公正証書遺言と法務局で保管されている自筆証書遺言以外の遺言書は、家庭裁判所で検認の申し立てをしなければ相続の手続きを進められない点に注意してください。
法定相続分の通りに相続する場合
遺言書がなくても、法定相続分の通りに相続する場合は、遺産分割協議書の作成は必要ありません。
法定相続分とは、民法で定められた相続の割合のことで、遺産分割の目安になります。
配偶者と子どもが相続人の場合 | 配偶者2分の1 子ども(全員で)2分の1 |
配偶者と父母が相続人の場合 | 配偶者3分の2 父母(全員で)3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合 | 配偶者4分の3 兄弟姉妹(全員で)4分の1 |
子ども、父母または祖父母、兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いる場合は、全員で上記の割合を均等に分割します。
遺産分割協議書が必要なケース
遺産分割協議書が必要なケースは、主に以下が挙げられます。
・遺言書がなく相続人が2人以上いる場合 ・相続税申告が必要な場合 ・他の相続人とのトラブルを避けたい場合 |
遺言書がなく相続人が2人以上いる場合
被相続人が遺言書を作成しておらず、また相続人が2人以上いる場合は、全員で遺産分割協議をし、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議によって相続した預貯金、不動産、自動車、株式などの名義変更には遺産分割協議書が必要となるためです。
また、遺産分割協議は法定相続人と相続財産をすべて明らかにしたうえで進めなければならないため、不安であれば遺産分割協議書の作成を含め、専門家への依頼も視野に入れましょう。
遺産分割協議書の作成を専門家に依頼すべきケースは、後ほど詳しく解説します。
なお、法定相続分の通りに遺産分割をする場合は、遺産分割協議書を作成する必要はありません。
相続税申告が必要な場合
相続税申告で、相続税を軽減する特例を適用する場合は、遺産分割協議書の作成が必要です。
相続税は、遺産総額が以下の基礎控除額を超える場合にかかり、申告と納付をしなければなりません。
相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
相続税申告は、被相続人が死亡した日から10か月以内が期限のため、できるだけ早く税理士に相談しましょう。
なお、遺言書がある場合は遺産分割協議書を作成する必要はありません。
他の相続人とのトラブルを避けたい場合
先述した遺産分割協議書が不要なケースに当てはまる場合でも、トラブルを避ける目的で遺産分割協議書を作成するケースがあります。
遺言書に記載されていない財産が発覚したり他の相続人の気が変わったりなど、後で思わぬトラブルが起こる可能性は否定できないためです。
遺産分割協議書が相続の手続きに必要か不要かという視点ではなく、遺産分割協議をした場合は相続人全員が内容に合意したことの証明として作成することをおすすめします。
遺産分割協議書を自分で作成する方法
遺産分割協議書は、自分で作成できます。
ここからは、遺産分割協議書を作成する流れや書面に記載する内容を解説します。
1.遺言書を探す 2.法定相続人を確認する 3.相続財産を確認する 4.遺産分割協議を行う 5.遺産分割協議書を作成する |
1.遺言書を探す
被相続人から生前に遺言書の存在を知らされていない場合は、遺言書を探す必要があります。
遺言書の有無によって、遺産分割協議書の作成が必要か不要かを判断しなければならないためです。
公正証書遺言であれば公証役場、自筆証書遺言であれば法務局または自宅などを探しましょう。
税理士や弁護士に預けていたり金融機関の貸金庫に保管されていたりする場合もあります。
2.法定相続人を確認する
相続人全員で遺産分割協議をする必要があるため、被相続人の戸籍謄本で法定相続人を確認します。
法定相続人の範囲は、以下の通りです。
常に相続人 | 被相続人の配偶者 |
第1順位 | 被相続人の子ども (すでに死亡している場合は被相続人の孫) |
第2順位 | 被相続人の父母 |
第3順位 | 被相続人の兄弟姉妹 (すでに死亡している場合は被相続人の甥・姪) |
なかには、前の配偶者との子どもがいたり婚姻関係にはない相手との子どもがいたりする場合もあります。
3.相続財産を確認する
次は、被相続人の遺言書や遺品をもとに相続財産を確認します。
一般的には、現金、預貯金、不動産、株式などが挙げられますが、インターネット上で管理されている財産もあるかもしれないので、見落とさないように注意しましょう。
また、被相続人の負債も相続されるため、プラスの財産もマイナスの財産もすべて明らかにする必要があります。
4.遺産分割協議を行う
法定相続人と相続財産が確定したら、相続人全員で遺産分割協議をし、誰が何を相続するかを決めます。
話し合いの方法は自由ですが、必ず相続人全員が参加しなければなりません。
なお、不動産や自動車など分割しにくい財産を複数の相続人で共有名義にするのは、トラブルを防ぐために避けたほうがよいでしょう。
5.遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議が成立したら、遺産の分割方法を具体的に記載した遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書は自分で作成するか、専門家に依頼する方法があります。
なお、遺産分割協議書の書式に決まりはありませんが、遺産分割の内容が明確にわかるよう以下を記載しましょう。
・被相続人の氏名、生年月日、死亡日、本籍地、最後の住所 ・相続人全員が遺産分割協議の内容に合意している旨 ・各相続人が取得する相続財産の内容 ・後で新たな財産が発覚した場合の取り扱い方 ・相続人全員分の遺産分割協議書を作成した旨 ・遺産分割協議書を作成した年月日 ・相続人全員の住所、署名捺印 |
遺産分割協議書が完成したら、相続人全員分を用意し、内容が同じであることを示すために相続人全員で割印をします。
遺産分割協議書の作成を専門家に依頼すべきケース
遺産分割協議書は自分で作成できますが、以下に当てはまる場合や不安な場合は専門家に依頼したほうが正確です。
ただし、相続の状況によって依頼先が異なる点に注意してください。
相続の状況 | 依頼先 |
・法定相続人が多い ・相続財産が多い ・相続財産に不動産や非上場株式がある ・相続税がかかると予想される | 税理士 |
・他の相続人とトラブルが起きている ・相続の状況が複雑になっている | 弁護士 |
・相続財産に不動産がある ・不動産の権利関係が複雑になっている | 司法書士 |
・遺産分割協議書の作成のみを依頼したい | 行政書士 |
なお、相続税がかかる場合は遺産の分割方法によって税額が変わるため、遺産分割協議の前に税理士へ相談することをおすすめします。
【Q&A】遺産分割協議書に関するよくある質問
この章では、遺産分割協議書に関するよくある質問にお答えします。
預金は遺産分割協議書なしで相続できる?
預金を相続する手続きは、遺産分割協議書なしでもできます。
金融機関によって必要書類がやや異なる場合があるため、取引先の金融機関へ問い合わせましょう。
ただし、複数の金融機関で手続きが必要な場合は、遺産分割協議書を作成したほうが効率的です。
不動産は遺産分割協議書なしで相続できる?
遺産分割協議をし、不動産を相続した場合は遺産分割協議書なしでは手続きができません。
不動産の名義変更(相続登記)には、遺産分割協議書を法務局へ提出する必要があるためです。
なお、法務局では遺産分割協議書の作成方法に関する相談は受け付けていないため、税理士または司法書士に相談しましょう。
遺産分割協議書の国税庁のひな形はある?
国税庁の遺産分割協議書のひな形はありませんが、参考として記載例があります。
引用:国税庁
遺産分割協議書の書式に決まりはないため、必要事項を記載できていればどのような形でも問題ありません。
遺産分割協議書の作成は税理士法人吉本事務所へ
遺産分割協議書の作成は、税理士法人吉本事務所へご相談ください。
相続税がかかる場合は遺産の分割方法によって税額が変わるため、財産の金銭的価値を正確に評価し、相続税を考慮した遺産分割をご提案いたします。
遺産分割協議書の作成から相続税申告まで一貫してお受けいたしますので、どのように手続きを進めたらよいかわからない方もどうぞご安心ください。
また、当事務所には税理士の他に行政書士が在籍しているため、遺産分割協議書の作成のみのご依頼もお受けできます。
相続のプロとして一つひとつ丁寧に対応させていただきますので、ぜひ税理士法人吉本事務所までお気軽にご相談ください。
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まとめ
遺産分割協議書は全員が必要ではありませんが、相続人全員が内容に合意したことを証明するために役立ちます。
どのように作成すればよいかわからない場合や不安な場合こそ、専門家を頼って効率よく手続きを進めましょう。